国土交通省に連絡するきっかけは、以前、私がクラウドファンドで1/12 OCR1000の模型の開発資金集めを呼び掛けたときに応募してくれた元バイクメーカーのKさんでした。OCR1000のことは漫画「熱風の虎」で知った世代で、バイク雑誌に復活の記事が掲載されたときは、日本への輸入を期待していたそうです。

今は退職して故郷に帰り、全く別の仕事をされているのですが、OCR1000の登録に関する相談をしたところ、ある電話番号を教えてくれました。
「そういう話なら国土交通省に直接、問い合わせてみては如何ですか?これが担当部署の直通番号で、AさんかBさんという方が対応してくれると思います」「後日、省庁に呼ばれて話をする形ですが、お話を伺う限り、高田さんは、私が今まで会った誰よりもOCR1000に詳しいので、たぶん、先方もちゃんと対応してくれますよ」
お伊達られて、気分も良くなったので数日後、電話してみました。まず、女性が出たので用件を簡潔に説明すると、少々、お待ちくださいと言われ、しばらくして電話口で応対してくれたのは、名前が挙がっていたAさんでした。
「オランダ製のロータリーバイクの国内登録に関してとのことですが、失礼ですが個人輸入されるのですか?それとも業者の方ですか?」
事情を説明すると「それでは、そのバイク自体について詳しく教えてください」と、排気量から始まり、バイクの歴史や総生産台数、現在のOCRモータースの規模、EUのバイクメーカーとしての認証はあるか、欧州の排出ガス規制をクリアーしているか、日本への登録実績、輸出の計画台数など、かなり細かい質問をされました。今思えば「本当に、こいつはOCRモータースの代理人なのか?」を確認する意味もあったのかもしれません。
一通りの質問が終わると「少々、お待ちください」と保留音に。「省庁に呼ぶ日を指定すべくスケジュール確認かな?陳情や相談とか多いだろうから、やはり一か月後とか?でも国内メーカーが優先だろうから、数か月先とかか?」などと妄想を巡らせていたら、いきなり「お待たせしました。まず、そのロータリー車の登録にあたり、一番問題となると思われるのが排出ガス検査です。現行の排出ガス規制に至るまでの経緯を御説明しますと…」と規制の説明が始まりました。どうやらスケジュール確認ではなく、資料を取りに行ってたようです。前回の記事で排出ガス規制の歴史について詳しく書けたのは、このときのAさんのレクチャーの賜物です。
結局、訪問する必要はなく電話で用件は済みました。
1:誤解があるようだが2016年規制の猶予期間は、輸入車に関しては2018年9月までなので、それまでに輸入される新車に関しては2016年規制は適用されない。
2:OCRモータースのOCR1000が、本当に1970年代の部品で組んであるという確認はできないので、バイクの製造証明に記載された年で判断をする。仮に今回の10台のOCR1000が1981年の時点でほぼ完成しており、Van Veenの製造証明が発行済みで、記載製造年が1981年だとすれば、排出ガス規制の適用外となる。(Van Vennの工場閉鎖時は、10台は部品状態だったので製造証明はなく、これを実行するのは不可能です)
3:もし、OCRモータースが創業した2012年に全車生産されたのであれば、2006年規制は免れない。数台づつ組み立てているなら、2014年以降の生産車には、2012年規制が適用される。いずれにしても1970年代のロータリーエンジンでキャブレターでは、どちらの規制もクリアーできないので、そのまま輸入された場合は登録はできず、ナンバー交付されないので公道は走れない。
4:その台数だと専用FIを開発するのはコスト的に無理だろうから、マフラーにキャタライザー(触媒装置)を取り付ければ規制値はクリアーできるかもしれない。
5:結論を言えば、Van Veen時代の製造証明がないなら、そのままで国内登録はできない。可能性があるとすれば排気系にキャタライザーを組み込む改造をすることだが、マフラー形状など外観が変わるし、販売価格の上昇も避けられない。これらを踏まえ、OCRモータースとよく相談して結論を出して欲しい。
という話でした。実は電話する前に「言っとくけど、国土交通省の連中は態度が偉そうだぞ」「話がわかり辛い」「まず否定から入る」等々、バイク業界の方々から、あまり良い噂を聞かなかったのですが全くそんな事はなく、時間を掛けて丁寧に説明をしてくれました。ひょっとするとAさんの人柄かもしれません。電話の最後に「がんばってください」と言われたときは、こっちがびっくりしました。

結果はアンドリース・ヴィエリンガ氏に報告しましたが、まだ、どうするかは検討中のようです。例え、キャタライザーが組み込まれた今風のマフラーになったとしても新車のOCR1000の走る姿を見てみたいです。