今から30年前の話になりますが、カーモデラーのSさんと同業で、もう一人、忘れられない御客さんが1/48の大戦機モデラーのKさんです。見た目が堅気で、優しそうなSさんとは真逆で、強面で髪形も服装もアクセサリーもまんまでした。

 初来店での買い物がラクーンモデルの
1/48ピョレミルスキで、絶対に勘違いしていると思い、これはプラモデルじゃありません、普通の人には組めませんよと説明すると

「知っています。レジンキットですよね。個人的にはレジンよりバキュームの方が軽いし、プラモ用の接着剤も使えるんで好きなんですけど、1/48のピヨレミルスキは、これしかないんですよ」

と言うほどのマニアでした。

ピヨレミルスキー

 三か月後、いきなり見事な完成品を持って来てきたので驚いていたら、たまたま店内にいた若くて無敵な飛行機オタクが、相手の怖さよりも自分の知識を語りたくて仕方ない欲が勝ってしまい、

「機体色はもっとグリーンが
」「コクピットは」「そもそもラクーンのキットは」

などと命知らずのモデラー的因縁付けを始めたので、こっちはハラハラしましたがKさんは

「なるほど。勉強になります」「お若いのにお詳しいですね。ありがとうございます」

と終始、紳士的に応対。外見とは裏腹に、いつも言葉使いが丁寧な方でした。


その出来事から数年経ったあるとき、フィンランドの航空博物館の写真を手に来店。

「先日、仕事でルーマニアに行ったんですけど、ついでにフィンランドに寄って、博物館でピョレミルスキの実機を見てきました」

「昔、いろいろ教えてくれた彼には申し訳ないけど、機体色は私の完成品の方が実機に近かったですよ」

撮影した沢山のピョレミルスキの写真を見せてくれました。

 Kさんの名刺の肩書は観光企画会社の社長で、入浴施設と外国人ホステスのクラブを経営しており、丁度、巷でロシアン・パブで働くルーマニア人ホステスの噂が聞こえ始めた頃だったので、ルーマニアでの仕事内容も察しがつきました。

 
ルーマニア出張では、先方の幹部からブカレストの市内観光に誘われたので「市内観光より軍事博物館に行きたい」と頼んだら苦笑され、「博物館が銃の横流しをしている話ならガセ情報だからな」と言うので「ルーマニア国産戦闘機IAR-80を見たいんだ」と言ったら、その幹部は元空軍の軍人で滅茶苦茶に喜ばれたとのこと。

IAR80
 Kさんの愛読書は「北欧空戦史(中山雅洋著)」で小国フィンランドが強大なソ連に立ち向かう姿に幾度も勇気づけられたそうです。

「仕事上、大きな権力とぶつかってトラブルになったり、理不尽な思いをしたとき、何度も読み返して怒りを抑え、自分を鼓舞しました」

一見、良い話ですが、大きな権力ですかぁ…

(続く)