「なんでも屋のチュウさん」を紹介してくれたのは、友人の中西氏。元某大手家電メーカーのサービスマンで、以前は回路設計をやっていました。退職後はリサイクルショップで働いていて、大概の機械を直せて、名前が忠弘(タダヒロ)だから「なんでも屋のチュウさん」。自宅は秘密結社の研究所のように怪しげな工作機械や計測機器だらけ。もちろん独身。ポリシーは「人が作った物を人が直せないわけがない」

 きっかけは携帯電話が壊れて販売店に持って行ったら「もう部品がメーカーにないから、修理不能」と言われたときで、中西氏が「チュウさんなら、たぶん直せる」と紹介してくれ、携帯電話を送ったら、手持ちの部品流用で修理してくれました。

 その後、自宅の21年前のクーラーから異音がしたとき、中西氏に「壁から外してチュウさんに送れば直してくれるかな?」と冗談でメールしたら、「メーカー名と型番と購入年を教えてだって」とマジな返信があり、まさかと思い送信したら「チュウさんが直接、話したいそうなんで、ここに電話して」と。

 すぐに電話したら「その症状なら直せます。後ほど修理方法をFAXするので、御自身で挑戦してください」「1980年代の家電は修理や再生を考えて設計されたメーカー良心時代の最後の製品です。だから必ず直せます」

「その機種は筐体を共通化し、ファンを回すモーターと熱交換機をモデルごとに変えていました。ただ初期生産品では筐体にモーターを固定するホルダーの形状と材質に問題があって、それがずれたり摩耗すると異音が出て、最悪止まります」

「もちろんメーカーでは対策部品を用意していましたが、さすがに今は在庫が無いので、今のホルダーを御自身で加工して再利用してください」

 その後、用意する物と分解修理のコツを書いたFAXが届いたので、ホームセンターに行き、指示されたゴムシート、両面テープ、ABS板、ボルトなどを購入して分解に挑戦しました。FAXの指示どおり、機種固有の隠しネジの位置や触れてはイケナイ箇所に注意し、熱交換機を外して、モーター用ホルダーを取り出し、指示図どおりに加工して組み立てました。約3時間の作業後、半信半疑で電源をONに。あ、本当に直ってる。明らかに前より調子が良い!

 さっそくチュウさんに報告し、何か御礼をと申し出ると「もう中西さんから弁当と焼き鳥と缶ビールをもらったので、それには及びません」まさに平成の神です。

 バブル時代、家電メーカーや商社が海外から輸入して売りまくった後、知らんぷりした海外家電製品のメンテ、製造メーカーが倒産した町工場の生産設備、外車ディーラーがお手上げのイタリア旧車の電装修理、みんなチュウさん頼りだったそうです。そんなチュウさんから電話がありました。先月末でリサイクルショップを辞めたと。

「私が得意とした80年代以前の家電や電動工具の共食い修理も家電リサイクル法の影響でドナー機の入手が難しくなってきたうえ、昔は気に入った製品であれば、修理してでも長く使ってくれる人が沢山いたのに、最近は使えるのに新しく買うという方ばかりでね。もうお呼びでないと感じたもんで、思い切って辞めました」

「エコだのリサイクルだの言いますが、製品をゴミにして金を取り、高いお金を掛けて材料に戻し、それを再利用して、その経費を消費者に転化する。お金は回ってますけど、そこに使われるエネルギーの総量や設備から排出されるCO2、リサイクルできず廃棄される部品や素材を考えると本当にエコなんですか?リユースの方がよほど環境に優しいと思いますが」

「メーカーの都合で長く使えもしない物を乱発している国が、物作りの立国を名乗るとは、私には信じられません」

「次の仕事ですか?考えてはいるんですが、実現の目処がついたら中西さんや高田さんの手も借りたいので、そのときは御願いします」

 環境やエコやリサイクルのことは、様々な意見があり過ぎて、何が本当なのか、頭の悪い私にはわかりませんが、安易に物を捨てる社会が良いはずはありません。チュウさんには、ぜひ恩返ししたいので、こんな私で良ければ、何でも御用命ください。