去年の12月の話です。
某宅配便会社のお歳暮シーズンの臨時パートさんとして、私と同世代の50代の女性が、ちょくちょく配達に来ていたのですが、あるとき、事務所のプラモの山を見て聞かれました。
「戦車のプラモデルが沢山あるけど、模型屋さんですか?」
模型の開発とか設計の仕事をしていて、模型屋ではないんですよと答えると、
「そうですか… 模型屋さんだったら、戦車のプラモデルが沢山あったよって、子供に教えてやろうと思ったんですよ」
世間話のつもりで、お子さん、戦車のプラモデル、好きなんですか?と尋ねると語り始めました。
「身内の恥晒しで情けない話ですけど、長男が17歳のときから、部屋に引き籠ってしまい、結局、高校中退しちゃったんですよ…」
おい、おい、いきなりヘビーじゃないか!(泣)
なんでも今年22歳になる息子さんが、この5年間、昼夜逆転の生活をしていて、親が起きているときは部屋から出てこず、寝静まった後に風呂に入ったり、食事をしたり、居間の大型テレビで深夜アニメを見ていたとのこと。
親として何もしなかったわけでなく、学校や公的機関、関連NPO団体にも相談に行ったものの、事態は変わらないまま時間だけが過ぎたそうです。
もう夫婦で「生きていてくれるだけでいい」と考え始めた矢先、息子さんが急に戦車のプラモデルを作り始め、今まで外出といえば、深夜に近所のコンビニと、24時間営業のファストフード店にしか行かなかったのに、
「この週末、大洗に行ってくる」
5年ぶりに電車に乗って、遠出をしたのです。
「親として嬉しくて涙しましたよ。忘れもしない先月16日、朝早く出掛けると言うんで、私が車で駅まで送りました」 「本当に嬉しかったです。こんな話は誰にもできなかったけど、置かれていた戦車のプラモデルを見て、つい…」
熱く語るお母さんには申し訳ないのですが、「戦車プラモデル、深夜アニメ、大洗」とくれば、何となく予想はできました。検索したら、やはり、こんなポスターが…

左上に「あんこうチーム来場決定!!」の文字がありますね。日付も11月16日、間違いありません。
まあ、深夜アニメがきっかけで、引き籠りを克服できたのですから、人間、何が幸いするかわかりません。
その後、しばらく、配達に来ていましたが、正月休みが終わった頃、
「パートが終了なので、また、お中元のシーズンに」
と御挨拶を頂いたので、そのとき、息子さんの後日談を聞こうと思っていたのですが、今夏は全然違うおじさんが配達に来ました。
きっと、家族に笑顔が戻ったんで、パートで働く必要がなくなったのかな?と勝手に考えています。