仕事仲間の台湾人であるH3さんが興味深い話を聞かせてくれました。今から40年前の台湾で、なんとカワサキ・トリプルのH1Aが生産されていたそうです。もちろん、今流行りの中華製モンゴリみたいなコピーではありません。
H1Aの前身であるKA1の北米や日本国内での人気を知った台湾のカワサキ代理店は最速スポーツバイクとして自国の富裕層にもニーズがあるのでは?と考えましたが当時の台湾では大型バイクの輸入は厳しく規制されていました。
なんとかH1シリーズを国内販売したい代理店は日本から部品状態で輸入し現地で組み立てて、台湾製とすることで、この輸入障壁を乗り越えることにします。新興国の自動車生産などでも、しばしば採用される、このノックダウン方式は台湾の労働力を使うため販売価格を抑えられるメリットもありました。話題の大排気量スポーツバイクが手頃な価格で買えるとあって、当然、代理店はヒットを期待しました。しかし、台湾製H1Aは散々な結果となります。
当時の台湾で人気のあったカワサキ製バイクは低速トルクがあって荷物が沢山運べると評判だったビジネスバイクの125B1でした。まだまだバイクは仕事の道具であって、レジャーやスポーツ用など趣味で買う人は極少数でした。
こんな状況だったので、各地のバイク販売店は代理店の目論みを無視して、あろうことか125B1を買ってくれた工場や農家に、よりパワーのあるビジネスバイクとして売り込みました。
「500㏄だから1台で125B1の4台分も働いてくれるよ」
H1Aは高速スプリンターであってキャリアーを付けての荷物運搬やリアカーの牽引などの力仕事には不向きです。販売店のセールストークに乗せられH1Aを買ったユーザーたちから、すぐに沢山のクレームが代理店に届きました。
「燃費が悪い」「排気煙が多すぎる」「トルクがない」「125B1の4台分には、ほど遠い」「車両価格や排気量の割には仕事の効率が悪過ぎる」
さらに不幸なことに、ビジネスバイクとして売り込まれたので本来の目標であった富裕層には見向きもされず「役立たず」「大飯食らい」「音ばかりで働かない」と烙印を押されてしまい、結局、ノックダウン生産は僅か100台で終了して最後は特価販売となり、使い潰されて僅か10年間で台湾国内から全車が姿を消したそうです。
興味深いのは、カワサキからは無打刻のフレームが供給され台湾独自のフレーム番号を打刻しました。これは台湾で生産された安価なH1Aの日本や北米への輸出防止策だったと言われていますが台湾側からの要求だったとの説もあり、真偽は不明です。
現在も残っている台湾製H1Aは1台のみ。台北在住のイギリス人バイクコレクターがレストアして実動状態で所有しているそうです。写真は、たまたま部品で残った台湾製H1Aのタンクです。
