GUMKA工房記

模型の企画・設計とロシアのレッドアイアンモデルズの代理店をやっている「GUMKAミニチュア」の備忘録を兼ねたブログです。雨が降ると電車が止まるJR武蔵野線の新松戸と南流山駅の中間辺りに事務所はあります。近所に素材や塗料が揃う模型店がありません。最近、昔からやっている本屋が閉店しました。

カテゴリ: いろんな人がいて社会


 私が思うに人の心は「引き出しのあるタンス」ではないかと。記憶や思い出がキチンと区分された細かい引き出しが無数にある人もいれば、大きな引き出しが数個しかなく、そこに大雑把に記憶と思い出を放り込んでいたりと、その辺は様々で、さらに引き出しに鍵を掛けている人もいれば開けっ放しな人もいて、開け易いようで開け辛かったり、その逆もまたしかり。

 引き出しの中にある「記憶」や「感情」「思い」を燃料に動くのが「会話エンジン」です。沢山の引き出しがあってエンジンが4サイクル単気筒50ccだったりすると長い時間、話題がつきませんが、引き出しが小さいのに2サイクル三気筒750ccだとすぐ燃料切れです。

 引き出しの数もそこそこ。会話エンジンも4サイクルDOHC 2気筒400ccから4サイクルOHC4気筒1200cc、普通はそんなもんです。てな事を頭に入れていただいて、本日の話題です。

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 今から10年ほど前、新しい美容室に行ったときの話です。カットしてくれたのは、自分と同年代のアラフィフ女性。

「お客さんは御近所? 常連さんですか?あ、御新規でしたか。すみません。私、いつもは沿線の別の店にいるんですけど、今日は店長が風邪ひいて応援に来ているんで、お客さんの顔がわからないんですよ」

 歌手のmisonoが50代になったような容姿で、話好きそうな雰囲気なので試しに硬軟混ぜて幾つか話題を投げてみると、流したり落とすことなく完璧に受けて返してきます。どうやら会話エンジンはフォードOHV V8ウィンザーのようです。これは良いエンジンなんですね。それが証拠に聞いてもいないのに、もう身の上話を始めています。

 よ~し、今日はこの人の引き出しを開けまくって直線道をぶっ飛ばしてみましょう。まずはアクセルを踏み込んでと。

「お姉さん(←この単語がポイント)、歌手のmisonoさんの未来像な感じですね。学生時代とかモテたでしょう」

 鏡越しに見える彼女が、みるみる嬉しそうな笑顔に。その瞬間、会話エンジンからキュルキュルキューン言う吸気音が!一気に吹き出す10代~20代の歴代彼氏との楽しい&恥ずかしい思い出の数々。どいつもこいつも清々しいほどのクズ野郎ばっかり。まるでシートに押しつけれるような強烈な加速です。し、しまった!こいつはノーマルのV8エンジンじゃない。スーパーチャージャー付きだ!

 私も、やめておけばいいのに会話ハンドル(あいづち)とシフトノブ(おいしい質問)を操りアクセル踏んで(話の水向け)さらに速度を上げてみます。

 彼女のエンジンは悲鳴を上げるどころかグングンと加速しています。どうやら会話レーシングクランクも組み込まれているようですね。ノリ突っ込み、故意な聞き間違い、自虐、妄想、物真似を次々と繰り出す芸達者な化け物です。話題は30代初めに自称ミュージシャンの彼氏を養うため、昼は美容室、夜は年齢をサバ呼んでキャバクラでバイトしていた頃のネタで、聞いているだけで、こっちが息苦しくなる猛烈な加速感。これだけの圧倒的なパワーは「小説を書かない太宰治(仕事は超できるけど女性関係が滅茶苦茶)」こと高知のYさん以来。まあ彼は元TV局勤務だから完全な素人じゃないけど。

 店内には隣の椅子にシニア女性客とその髪を切る20代半ばの女性スタッフのみ。しかし、二人とも、すでに我々の会話で笑いっぱなし状態。

「Kさん、おもしろい話やめてください!笑い過ぎて仕事になりません!」

 さすがにクレームが。これは赤信号なので一時停止。しばし休戦。ハサミのチョキチョキ音と隣席の思い出し笑いが静かになった店内に響きます。しかし一度、レッドゾーン超えで温まったスーパーチャージャー付きエンジンが止まるはずありません。こっちがアクセル踏んでいないのに「沈黙を破る」という青信号を勝手に認識。

「ところで、お客さん、お一人ですか?」

いや結婚しているけど。

「楽しい男性は大概、結婚しているか相手がいるんですよね。私、バツイチで、この歳になると一人で食べる晩御飯が寂しくて」

 私の知り合いにも独身やバツイチ、バツニの男女が沢山いるけど、独り身を謳歌していたり、新しい伴侶に巡り会ったりと様々なんでお姉さんなら、きっと良い相手が見つかりますよと返すと再びスーパーチャージャーのキューン音が!

「良い相手といえば私のいつも働いているお店にも、渋くてカッコいい独身男性がいるんですけど、どうもゲイなんですよ」

 ここで話し方と相手によっては危険性の高い同性愛ネタをぶっこんできて、しかも際どい下ネタ方向で嬉々として語り始めます。どうやら彼女は速度記録用ロケットブースターまで装備しているようです。これはボンネビル塩湖で最高速度に挑戦できるレベルですよ。この加速が私の予想以上で一瞬コントロール不能になりかけましたが、私の代わりに食いついてハンドルを握ってくれたのは隣の女性スタッフ。完全にハサミ止めて

「え?!もしかして、M田さん?M田さん、ゲイなんですか!ショック!なんか大人の男って感じで素敵だったのに。Kさん、証拠あるんですか」

「よくぞ聞いてくれたわね、あるよ沢山。まず私、何度もM田さんを食事や飲みに誘っているけど一回も来ないの。あれは女性に興味ないのよ」

 M田さんの気持ちわかるな。この人と食事なんぞに行って、スーパーチャージャーがONしたら話を聞くだけでクタクタだろうから、たぶん私も誘われても断るだろうな。以下、彼女の言う証拠とやら

1) 冬だけでなくいつも革パン。春や秋でも革ジャン着用
「レーザーラモンHG見ればわかるけど、昔からゲイは革よ」
単なるファッションでは?

2) 太って口ひげを蓄えた男性客が、いつもM田さんを御指名する。

「横で話を聞いてたら、なんだか二人で旅行の話をしてんだけどXとかVなんとかの隠語を使ってて、1200ccより1400ccとか変な数字が混じっていたのよ。ピンときたわ。きっと旅先で男同士で変態プレイをしているのよ」

彼女は二人のプレイの様子を妄想で勝手に再現して暴走してます。

「きっとホテルに入るや『M田、オレの愛のXプレイ1200cc、お前にぶち込んでやるぞ!』『ああぁ、嬉しいですぅ~』『よーし今日は御褒美のVプレイ1400ccだ!』『ああぁ、勘弁してくださぃ~』とかM田さん、声裏返って悶絶して喜ぶのよ」

 M田さんだけにドM設定なんですね。たぶん、その二人はバイク乗りなのでは?数字は変態プレイに使う液体量ではなくバイクの排気量で、XとかVはGSXとかV-MAXとか車種名でないかと。M田さんの名誉のために教えようかとも思いましたが、やめました。だってネタになるから最後まで妄想劇を聞きたかったんだもん。

「M田さん、お客さんとそんな恥ずかしいことしていたなんて(←単なる妄想で本人は何もやってないのに一方的に変態認定。こいつも大概です)もう本店行ったとき、私、M田さんの顔見られません」

「私なんか毎日、会っているのよ。M田さんのお尻、キュっと締まっているからゲイにはたまんないじゃないの?女の勘では絶対にゲイよ。間違いないわよ」

 ずいぶんと無責任な女の勘です。生活の中の冤罪ってこうやって作られるんだな。

 カットが終わってから敬意を込めて

「お姉さん、元お笑い芸人か女性落語家とかですか?会話、おもしろ過ぎでしょう?」

「お客さんこそ、お笑いのシナリオとか書いてません?最高でしたよ。楽しかったな。私、いつもは本店にいるんですよ。今度、そっちにも来てくださいよ。二人で本店を笑いの渦に巻き込みましょうよ」

 うん。スーパーチャージャー&レーシングクランク付きフォードV8エンジンは、もう懲り懲りなんで絶対に行かないから。

【後日談】

 約一ヶ月後、ワンフェスがあるので髪をカットすべく、再びこの美容室に行きました。Kさん、いつもは違う店にいるって言ってたから大丈夫だろう店内に入るないなや、前回、隣でシニア女性のカットをしていた20代半ば位の女性スタッフが人を指差し「あ~!」

「店長が夏休みを取るんで、来週ならKさん、来ますよ」

 いやいや私はKさんには会いたくないの。イベントがあるんで小奇麗になりたいから髪を切りたいの。というわけで、その女性がカットしてくれたのですが、

「Kさんから聞いたんですけど、御客さん、昔は劇団員で舞台役者志望だったそうですね」

はぁ⁇

「公演に通ってくれたファンの女性と結婚して、放送作家に転身したとか?」
 
 スーパーチャージャー付きフォードV8ウィンザーエンジンのKさん、勝手に人の嘘人生をでっち上げてました。まあ、同僚男性を冤罪ハードゲイ認定する人でしたからね。


 私の祖父は、街中で興味を引く人や物を見つけると老若男女問わず話し掛けていましたが、その血を引き継いでしまい、不思議や疑問があると、ついヤバめな相手にも声を掛けて、別の意味でヤバい人で話が止まらず逃げられないとか、言っている事が支離滅裂の本物で即逃げるという事故に遭遇します。

 しばしば「高田さんの周囲には、おもしろい人が沢山いますね」と言われますが、実はミーネンロイマーの如く積極的に地雷原に突っ込んで踏みまくっているだけで、一つのおもしろエピソードの陰には使えない話が幾つもあります。

 郵便局に行く途中の坂川で鴨に餌をやっている80代くらいのお婆さんがいました。ふと手元を見ると、ドライタイプのキャットフードをあげています。「え⁈」と思ったら、もう止まりません。「すいません、鴨にキャットフードをあげているんですか?」

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お婆さん、こっちを一瞥した後、餌をやり続けながら
「今ね、マーコっていう猫を飼っているの。前の猫が死んじゃって、その子がミーコだったからマーコね」
なるほど。マ行で前に戻るのか。するとマーコの次はホーコか?
「ミーコが死んで落ち込んでたら、娘がミーコの従兄(甥っ子か姪っ子の間違い?)だよって子猫を持ってきてくれたの。見てくれは似ているけど、ミーコは、すごく大人しかったのにマーコは御転婆でね。で、ミーコが大好きだったキャットフードが、まだ残っていたんで、マーコにあげるんだけど、全然、食べないの。だからって捨てるのはもったいないから、こうやって鴨ちゃんにあげるの」
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 お婆さん、前の飼い猫が残したキャットフードって、賞味期限とか大丈夫なんですか?もしかして子猫が食べないのは油が変質しているからでは?あと活発なのは、まだ子猫だからでしょう?と次々に突っ込みが湧きましたが、この人物は突っ込んでも、面白い展開がないと脳内アラートが鳴ったので「そうでしたか。失礼します」と離脱しました。 


 もう11年前の話ですが50歳になって禁煙をしたら、あらゆる食べ物がそれまでより美味しくなり、僅か2年ばかりで体重がかなり増えました。
 当時、大学生だった次女に誘われて、お手頃価格のスポーツジムに通いましたが、次女は学校やバイトが忙しくなり1年足らずで退会。仕事で籠りがちの私は、いい気分転換になるので3年ほど通いました。

 1年も経つ頃には顔見知りも増え、挨拶したり世間話をする人もできました。その中の一人が県内のK市で飲食店を経営する同年代のAさんでした。ハーフのような彫の深い顔立ちで、決して太っていなかったのですが、本人曰く仕事柄、食事が不規則だし、カウンター席に座る常連客から「せっかくだからマスターも一緒に」と勧められたり「盛り合わせを注文したいけど、一人だと食べきれないからマスターも半分、食べてよ」と女性客から請われると、どうしても断れず、気付くと腹回りが増量していたとのことでした。

 Aさんは運動経験があるからか、我流でトレーニングしており、特に背筋を鍛えるトレーニングマシンは「なにも、そこまで」というくらいの回数とスピードでやっており、ジムのトレーナーからも「Aさん、そんなに慌ててやらなくても大丈夫ですよ」「もっとゆっくりで」「そんなに沢山の回数ではなく、10~15回で十分ですよ」と注意されていましたが、おかまいなしでした。
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 あるとき挨拶をした後、Aさんはいつものように背筋のトレーニングマシンへ。私はランニングマシンで走り始めたとき、いきなりジムの中を小さな茶色い動物が、きれいな放物線を描いて滑空していきました。「なんだ?ムササビか?それともモモンガ?」と思ったら、パサっと床に落ちたまま動きません。
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 よく見たら、茶髪のヅラでした。そうとわかった瞬間、ジム全体がフリーズし、トレーナーを含め誰も動けなくなった中、Aさんがトレーニングマシンから降りてきて無言で拾いパチッと再装着すると、何事もなかったかのようにマシンに戻り、背筋運動を再開しました。でも、いつもよりスピードは、かなり遅くて、すぐに更衣室に戻って行きました。この日を最後にAさんをジムで見ることはなくなりました。

 義弟の葬儀のために新潟へ行っておりました。中学生の頃に高校数学の問題を解き、高校生の姉に微積分をレクチャーするほど頭の良かった彼は、鹿児島大学医学部に進学したものの、三年生になって持病のアレルギーが悪化し、満足に授業に出られなくなった上、担当教授と折り合いが悪かったことも重なって退学します。
 一時期は予備校の講師をしていましたが結局、医師になりたいと新潟大学医学部に再入学し、卒業後は大学付属病院の医局で喘息とアレルギーの研究を続けて、7本の共著論文を提出し医学博士号を取得します。

 普段は無口で冗談も言わない性格なので、きっと患者さんを診察するよりも研究室に籠るタイプだろうと私も家内も勝手に思っていました。
 なので、通夜や葬儀の席で病院の上司や同僚の医師、看護師から「患者思いの熱心な先生だった」「現場が厳しいとき、冗談を言って空気を和ませてくれた」「先生のブラックジョークが好きでした」「患者さんに人気があった」「地域老人の健康意識を高めるため、夜間集会を発案・実行し、それは今でも継続している」などの話を聞いて、とても驚きました。

 無神論者だったので葬儀は無宗教型式で行われました。無神論者=共産主義者と思われがちですが政治には全く無関心で、義母が年に数回も伊勢神宮を参拝する熱心な崇敬者だったことが嫌でそうなってしまったようです。無神論者故、戒名も故人を偲ぶ一周忌や三回忌の法要もなく、遺族としては寂しいですが、こればかりは本人の希望なので仕方ありません。

 あるとき、奇跡の回復について話題にしたとき「本人や家族が奇跡を期待するのは当然だし否定しない」と前置きしつつ「義兄さんのいう奇跡が劇的な回復のことをいうならば、それは治療の成果が遅く出たのかもしれないし、ある治療方法で原因の一つが取り除かれた結果かもしれない」「自分は、後は神に祈るだけとか奇跡を期待という言葉は医学の敗北だと思っているので、口にしない」と語っていたので唯物論者でもあるのでしょう。

 死因は悪性リンパ腫で闘病生活は1年9ヶ月にも及びました。同僚の医師たちが全力で治療にあたってくれ、今年の夏頃には一旦は回復し、この様子なら10月に退院とまで言われましたが、ここ数週間で急激に病状が悪化しました。

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 新型コロナウイルス感染防止のため、お通夜は通夜ぶるまいもできず、葬儀の参列者を分散させるため、直前まで勤務していた総合病院でもお別れ会を開きましたが、200名以上の医師と看護師、元患者さんが彼のために集ってくれたそうです。

享年58歳は、あまりに早すぎます。


 8月26日から三夜連続でNHKにてシン・エヴァンゲリオン劇場版が深夜放送されました。

 ”猫様”のOさんより電話があり「なぁ、シン・エヴァンゲリオンの破とQの間、どうなってるんだ?」「みんな、あれをわかるのか?」「映画でさらっと流している14年間のOVAとかコミックがあるのか?」序、破の続きとなるQが、何の説明もなく14年後になっていたのでプチ・パニック状態でした。

 アニメは子供の頃に見た「花のピュンピュン丸」の次が、50余年後の「ゲゲゲの鬼太郎 第6期」という60代半ばのシニアにシン・エヴァンゲリオンQは偏差値が高すぎです。

 聞けばOさん、少し前から猫様のグッズや同人誌を探すため、秋葉原通いをしているうちに綾波レイを知り、己が推しの猫様と比較して、あまりに豊富な関連商品群に圧倒され、あのキャラクターが登場する作品を見たいなと思っていたら、偶然、自宅近所のリサイクルショップで旧劇場版DVDを入手。以来、レイちゃんが愛しくて仕方がなく、制服姿の1/6可動フィギュアを中古で買って、食卓で毎日、一緒に食事をしているそうです(御本人の言葉どおり)

 ちなみにフィギュアは外箱に少し傷があったのと、アクセサリーの味噌汁の彩色に小さい剥げがあったので相場より安く買えたそうです。

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     メディコムトイの製品で、手に持っているのが味噌汁です(本人確認済)


 60代半ばのシニアの口から「あ~レイちゃんとポカポカしたい」と聞いたときは心が辛かったです。あと、今、気になっているキャラクターは「二つ結びでギターを弾いている可愛い女子高生」で、先程、連絡があり「けいおん!のアズにゃん」と確認したそうです。Oさん、いつまでもお幸せに。


 前回のWさんの体験談を掲載しましたが、それを読んだ友人のNさんが教えてくれた話です。

 やや几帳面が過ぎる元昆虫採集マニアのNさんといえば、模型店時代のホームページを読んでいた方には御馴染みかと思います。結婚して都内のマンション暮らしでしたが、その後、義母さんの住む沖縄に引っ越し、現在は仕事の都合で静岡県某市に単身赴任中です。これは彼がまだ独身で昆虫採集に夢中になっていた頃の話です。

 昆虫採集のシーズンは春から秋。ある夏の夜、Nさんは灯火採集をしようと、友人から勧められた近畿地方の山に泊まりがけで出掛けました。灯火採集とは、昆虫が明かりに集まる習性を利用して、白いシートや布に強い照明を当てて昆虫をおびき寄せる採集方法です。当時のプロやハイアマチュアは露店商が使うような携行発電機や本格的な照明機材など大掛かりなセットを車に積んで移動していましたが、彼は車が入れない場所での採集をするために身体一つで運べる範囲の機材を揃えていました。

 この日も麓の駐車場に車を置いて、乗用車がギリギリ通れるような細い山道を歩きながら、仕掛けを設置するポイントを探します。途中、理想的な場所がありましたが、すでに先客がおり、ライダー二人が天幕とテントを張ってキャンプをしてました。向こうから、ぶっきらぼうに「おぃ、こんな時間から登山か?」と尋ねてきたので、昆虫採集ですよと返事したら、笑って、こっちを小馬鹿にしたようなジェスチャーをするので、Nさんも相手にせず。そのまま、しばらく山道を歩き続けていたら、開けた場所があったので、機材を設置して照明を点けました。

 Nさんの機材は携行性が優先のため、それほど光量が強くなく、条件が揃えば成果はありますが、この日は不発気味。しかも運悪く夜10時頃から雨が降り始め、止む気配がなかったので「採集旅行の日程は、あと2日残っているから、ここで無理してもな」と諦めて撤収することにしました。

 雨具は折り畳み傘を持っていましたが、白いシートが防水仕様だったので、雨合羽代わりに頭から被り、両端をサリーのように体に巻き付けて、麓の駐車場を目指してトボトボ下山していたら、途中の空き地近くで、いきなり懐中電灯の光を当てられます。

 眩しいと思った瞬間、「うわー!」「ひぃー!」と叫び声がして、登るとき会ったライダー二人がバイクもテントもそのままで、雨の中を一目散に逃げて行きます。どうやら、白いシートを被ったNさんを幽霊と見間違えたようで、一人は逃げる途中の泥濘で転び、立ち上がるときにも滑って、漫画みたいにジタバタしていました。普段なら「幽霊じゃないですよ」と言いますが、最初に会ったときの印象が良くなかったので、敢えて何のリアクションもせず。宿に戻って「きっと、あの二人は、ツーリング先で幽霊を見たって話すんだろうな」と思いながら、ゆっくり温泉と夜食のオニギリを堪能しました。

 彼曰く、夏山の幽霊目撃談の何割かは灯火採集の布を被った昆虫採集マニアだそうで、自分自身も夏の夜道を運転しているとき、白い布をマントのように羽織って道端を歩いている昆虫採集マニアと思われる人物を見てびっくりしたそうで、知らない人なら絶対に幽霊と間違えるとのこと。


 なお、Nさん、こんな話をしておきながら、幾度か大変な経験もしており、一番怖かったのは真夜中の山中に立っていて、こっちをじっと見ていた半透明からやや実態寄りな子供だそうです。

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