模型店時代の旧店舗でのエピソードで当時の常連さんたちには有名だった話です。

 あるとき店番をしていると、女優の富田靖子、それも極初期型ではなく初期型に似た若い女性が、ふらりとやって来ました。手には当時でも珍しい風呂敷包みを持ち、目は洗脳された人特有のトロンとした視線で作り笑顔です。

「お仕事中に申し訳ありません。私どもは、この地区の皆様が幸せになれるように、◯◯様の御言葉をお伝えしています。なにか仕事の事や人間関係で悩みはありませんか

と、まあ、ありがちな勧誘トークをしてきました。駅前ビルの2階に引っ越す前の戸建て店舗時代は、ありとあらゆる飛び込み営業や宗教勧誘がありました。いつものように興味がないし、営業中で迷惑だと断ろうとしたら、

「もし奇跡を目の前で、お見せしたら、私共の話を聞いていただけますか?」

と言うやいなや、風呂敷包みを開いて、20cm四方くらいのサイコロ状の木製の箱を出します。上部に10㎝ほどの丸穴が開いていて、箱一面に細かい梵字が墨で書かれており、小道具としては満点です。

「これから、◯◯様のお力を御借りして、あなたに奇跡をお見せします。私は、あなたのために祈りますので、あなたは、もう一度、会いたい故人を一生懸命、頭の中に思い浮かべてください。私が『どうぞ』と言ってから、この丸い穴を覗き込むと、あなたの思い浮かべた方の顔が見えます」

 これは今までにない掴みのパターンです。「やめておけ追い返せ」という自分と「おもしろそうじゃないか。どっちに転んでも話のタネになるぞ」の自分が葛藤し、結局、好奇心が勝ち付き合うことにしました。


 バッタもんの富田靖子、さっそくブツブツ祈り始めます。死んだ祖父を思い浮かべつつ「どのくらい待たされるのかな?」と思っていると、1分足らずで、いきなり

「どうぞ」

えー、いくらなんでも早くないか?ちょっと芸が雑過ぎるぞと思ったものの、とりあえず箱の丸穴を覗きました。

「どうですか?顔が見えますか?その方は思い浮かべた方ですか?」


「うん。箱の底が見える」

「もっとよく見てください」

「底板の木目が見える」

「………」

これは、あなたの気持ちが足りなかったとか反論するパターンかな?と思っていたら案の定、

「その方を思う念が強くなかったからダメなんですよ」

「私も、最初は何も見えなかったんですが、◯◯様の下で、ずっと修行をしたら、力を頂けて見えるようになりました。ですから、あなたも◯◯様の御指導を受ければ、会いたい方にいつでも会えるように

人間、ない物が見えるようになったら終わりです。もっと他の生き方あったろうに可哀そうに。もちろん、お引き取りいただきました。