模型店をやっていた頃は一部の商品を直接、海外から仕入れていました。特にロシアの模型雑誌や資料本はモスクワの本ブローカーであるセルゲイ氏が良く対応してくれたので積極的に扱ってました。

 あるとき、とある模型店からロシアの航空関連の書籍を仕入れたいと相談を受けたので、セルゲイ氏を紹介しました。半年後に、その方から苦情が来ました。

「信頼できる人物という紹介だったけど、全然、話しが違う」

 セルゲイ氏は、いいかげんな奴が多いロシア人の中では、かなりまともで注文しても、入手不可能な本は「それは、もう無理」とすぐに返事をくれるし、自分が受けた注文については、時間が掛かっても必ず捜し出してくれます。ロシア名物である荷物の行方不明にも、誠意を以て対応してくれるし、ときどき、掘り出し物を探してきて案内もしてくれます。

 そこで、なにがあったのか詳しく話しを聞くと、

「メールを送っても、返信が、すぐ来ず、ひどい時は2週間くらいかかる」
「本を頼むと、すぐに無理とか不可能という。やる気があるのか?」
「荷物の発送が遅い。文句を言っても待てくれ、ばかり」
「バカンスとか言って、1ヶ月近くも連絡がとれない」
「本の表紙が汚れていたので、交換を要求したら、在庫がないから我慢してと言われた」
「こっちが頼みもしない本を、珍しい本とか言って、押し売りしようとする」等々

 え?どこが問題ですか?それは、彼の普段のビジネス・スタイルですよとなだめても、

「そんなやり方は日本じゃ通用しない!」

「日本人相手の商売なら日本の習慣に従うべきだ」etc

 模型商売を始めて25年、その半分以上をロシア人やら香港人と取引し、友人も多いので自分の物差しや基準が、少々、日本の平均とずれているのは仕事仲間の岡田氏からも指摘されるし、自覚もしています。でも、連中に闇雲に日本の納期や商慣習を強要しても無理だと思う。

 結局、その模型店とセルゲイ氏との取引は、すぐに終わりました。セルゲイ氏に、あまり良い商売にならなくて、残念だったねと声を掛けると

「彼は、商売に情熱を持っていたと思います。僕も一生懸命やったけど、彼の人生のスピードと、僕のスピードは違い過ぎたみたいですね」

人生のスピードかぁ。確かに違うよね。