リーマンショック以後、世界中の経済が大混乱となりましたが、それまで経済成長率7%以上だったロシアも例外ではありません。

まだ空前の好景気を謳歌していた2007年の3月、ロシア人の友人が仕事で来日しました。当時のモスクワは和食ブームで、市内だけで約500軒の日本食レストランがあり、郊外に位置する彼の自宅の近所にもオープンしたので、家族で行ったそうです。以下、彼との和食談義。

彼 「レストランの名前は『タヌキ』だ。日本人にとってラッキー・ワードだろう?」

私 「それは動物の名前だ。raccoon dog のことだ」

彼 「え?、ラッキー・ワードじゃないのか?」

私 「古い料理屋の店頭にはタヌキの焼き物が置いてあって、商売繁盛、千客万来の意味だけど。まあ愛嬌のある動物という印象かな」

彼 「ふーん」

私 「どんなメニューがあるの?」

彼 「寿司、天麩羅、焼き鳥、麺類、すき焼き、なんでもある。私が注文したのは、すき焼きだ。ちゃんと三種類ある。」

私 「え? すき焼きが三種類?」

彼 「(やや自慢げに)そうさ。ビーフ・ソイソース・スキヤキ(これはノーマルだね)、サーモン・ミソスープ・スキヤキ(石狩鍋?)サハリン・ スキヤキ(???)だ。私は、サーモン・ミソスープ・スキヤキとスシ・ノリマキ(海苔巻き寿司?)を注文した。とても、おいしかったよ」

私 「サハリン・スキヤキって、何?」

彼 「おいおい、サハリンには沢山の日本人が住んでいるだろう。えっ?それは戦前の話だって?あ、そうなんだ。いや、サハリンの日本人が食べているという話だったけど、タラバ蟹と海老、魚肉、野菜が入ったシンプルな塩味スープだったよ。(海鮮鍋?)」

私 「普通、すき焼きはビーフ・ソイソースだけど」

彼 「肉が煮えたら、鍋に溶き卵を入れるんだろう」

私 「いや、煮えた肉を溶き卵に浸して食べるんだよ!」

彼 「溶き卵に浸す? なんだって!何の意味がある?」

私 「いや、そういう食べ方なんだから」

こんな調子で、延々とパラレル・ワールドの日本食話を。文化の伝達は難しいですね。