数年前、香港に住むツツミシタ大塚君から電話がありました。用件は私が大昔、チュチマのフリーガーという第二次大戦中のドイツ空軍用腕時計の復刻品を欲しがっていたのを覚えていて、まだ興味があるか?てな内容でした。

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 昔ほど熱烈に欲しくはないけど興味はあると返事をすると、チュチマではないが、同じく大戦中のドイツ軍のクロノグラフを復刻した「ハンハルト」のタキテレが格安で買えると。始めて聞くメーカーだったので、とりあえず、一旦、電話を置いて検索してみました。

 ハンハルトは戦前は懐中時計とストップウォッチを製造していましたが、戦時中は軍に腕時計を納入しました。タキテレは通常のクロノグラフの文字盤に速度計測ができるタキメーターと距離計算ができるテレメーターを印刷しており、戦中・戦後のドイツ海軍砲兵隊で制式採用されました。ストップウォッチ専業メーカーとして確固たる地位を築いた1962年に腕時計の生産を休止しましたが、1997年にタキテレを復刻し再び時計メーカーとしての活動を再開して今に至ります。


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 文字盤中央の魔法陣がタキメーターで周囲の赤い数字がテレメーターです。値段を調べてみると国内定価は315,000円ですが実売価格は20~25% off程度のようです。大塚君が格安と言うのだから40~50% offくらいでしょうか?安いは安いけど、それでも15万円以上だから、ちょっと無理かななどと考えながら、彼にメールして、物はわかったから格安で入手できる事情と具体的な値段を尋ねてみました。

 事情は、ほぼ漫画で彼の義妹さんが香港島の時計店で働いていたのですが、ある日、出社すると店の金庫とロレックスやマイセンの装飾時計など高級時計のガラスケースが空っぽ。最初は窃盗団の仕業かと思ったのですが、実は店の女性社長が、金庫の現金と換金が容易な高額時計を持って秘書兼愛人だった若いイケ面男性と夜逃げしていました。

 この女性社長、父親から引き継いだ売上不振の老舗時計店の店内を今風に改装し、店員も不愛想で給料の高い中年男性を解雇して若い女性に入れ替え、大型ショッピングモールに支店も出す積極的な経営を展開。支店と本店の二店体制だったときは新規顧客も増えて、売上も一気に3倍になり、上々のスタートでしたが、さらに支店を三店舗も増やしたら見事に裏目に出て、資金繰りは悪化し、取引先への支払いは遅れ、とうとう従業員の給料も未払いになる有り様。最初は我慢をしていた社員たちも女性社長と団体交渉して、不採算支店の即時閉鎖と未払いの賃金を30日以内に全額払うという約束を取り付けましたが、その翌々日、女性社長はドロンというわけで…

 かくして残された社員は、社長が男と夜逃げしたと聞いて駆けつける債権者が、店内の金目のモノを根こそぎ奪って行く前に、未払い給料代わりに店頭の時計を持ってきたという心温まるストーリー。んで、肝心の値段を尋ねると絶対に有り得ない万円。  

 本当にそれでいいの?!というわけで御買い上げです。香港ではハンハルトというブランドの知名度が低いうえ、この手のミリタリー系の時計は不人気で義妹さんも、同業の時計店など、あっちこっちに持ち込んでみたものの値段が折り合わず、大塚君に相談したようです。彼もタキメーターとテレメーターのない「レプリカ」というモデルを購入済みでした。

 数日後、保険付きの国際小包が到着。中身は正真正銘新品のタキテレでした。

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まあ、物にも歴史ありってやつですか?(←たぶん、違う)