大学時代、結構長く地元の喫茶店でバイトしていました。そこは店内でスポンジから焼いて、数種類のケーキを手作りしている店でした。早番で出勤すると、店長と共に、仕込みや掃除など開店準備をするのですが、店長から、「お~い、いつもの頼む~」と言われるのが、近所の八百屋で、ショートケーキ用のイチゴを数パック買ってくる仕事でした。
「色艶の良いヤツ、選んでこいよ」

 連日、イチゴを見ていると、素人ながら色とか粒のサイズとかヘタの鮮度とかで、なんとなく良し悪しがわかるようになります。最初の頃は、ダメ出ししていた店長も、やがて、買ってきたイチゴを黙って洗い、スライスしてケーキの準備を始めるようになりました。

 近くに女子大や女子高もあったので、結構、店は繁盛しており客層の7割が女性で、ケーキは人気商品でしたが困ったことに、中には勘違いをする方がおりまして…

「お宅のケーキのイチゴ、とっても美味しくて感心するんだけど、やはり契約農場から?」

「ショートケーキのイチゴ、その辺で売っているのとは、全然、違いますよね。やはり、店長さんが、市場とかで、コダワって選んでくるんですかぁ?」

学生だった私でも、正直に答えてはイケナイという雰囲気を察したものの、どう答えれば、いいかわからないので、店長に相談しました。


「あぁ、そういうときはなぁ…」

「専門の業者から、毎日、買いつけています、と言っとけ」

「我々に御客さんの夢を壊す権利はないからね」

嘘はついていないけど、本当の事も言わずにボカすのは、
お互いのために、大切なんだなと学びました。

一つ成長した気がしました。