模型店
時代、しかも駅前に移転する前の旧店舗の頃の話です。古くからの付き合いのある江戸川区の塗料屋の店主から尋ねられました。

「高田さんの店では、真鍮パイプとか真鍮線とか扱っている?」

 近所に真鍮パイプや真鍮線を製造している工場があって、現金払いしてくれる取引先を捜しているという話で興味があるならとメモを渡されました。メモには電話番号と電話の掛け方が書いてあり、正確な回数とかは覚えていませんが、

 「五回呼び出し音を鳴らしたら一旦切って、10秒の間隔を空けて、もう一度、電話して三回呼び出し音を鳴らしたら切って、10秒の間隔を空けて電話すれば社長が出る」

てな事が書かれてあり、なんとな~くその工場の状況がわかりました。普通なら、こんな怪しい話は無視でしょうが、まだ若かったのと、旺盛な好奇心から電話してみました。

 メモどおりに電話したら「…はい」と女性が出ました。真鍮パイプの件でO塗料さんから紹介されてと言うと、社長さんの登場。聞くとはなしに、向こうから事情を話し始めましたが、やはり予想どおりでした。

 注文は電話のみ。納品は宅配便で送るので受取って中身を確認したら、荷物に付いてくる請求書の金額を指定口座に振り込むというシステムでした。

 注文後、2日で品物は届きました。品質はかなり良かったのですが、請求書と一緒にメモが入っていて品質に満足したなら、新しい御客さんを紹介して欲しい旨が書かれていました。

 事情が事情だけに、何があるかわからないんで他店の紹介はできず、もう少し、様子を見てからかな?と思っていたら、三回目の注文の電話を掛けたとき「お掛けになった電話番号は…」のNTTの定番メッセージが聞こえました

 紹介してくれた塗料販売店の店主に連絡がつかなくなったと伝えると、最近は発注元の要求が品質ではなく、値段になってしまい仕事が急速に韓国や中国に流れ始めており、この界隈でも会社や工場が、どんどん倒産・廃業しているとのこと。店主も話を持ちかけられたときは「もう長くないな…」と思ったものの、御近所のよしみで私を含め数社を紹介したそうです。

 丁度同じ頃、問屋で扱っていた麦球や電池ボックス、電極金具、ギアボックスなど様々な工作素材の供給がなくなりました。生産していた各地の中小・零細企業が倒産・廃業していたのです。

 しばらくして、切れていた工作素材が再入荷した時は、案の定、ほとんどが中国・韓国製になっていました。

バブルが崩壊して間もない頃の話です。